リーンスタートアップの第2部のまとめ。
第1部のまとめはこちら。
目次
構築→計測→学びのサイクルと事業拡大/転換 :本書 5、6、7、8章に対応
”舵取り”というだけあって、リーンスタートアップで中核を成す具体的な方法がこの2部にまとまっている。
細かい内容は後述の特記に記載してあるので、ここでは2部の総論をまとめる。
要は、
- 構築・検証STEP
事業仮説(価値仮説・成長仮説)を検証するためのMVPを作成し、アーリーアダプターに対して仮説検証を行う。
この時に高品質なMVPを作る必要はない。目的は仮説の検証だからだ。仮説が検証できる最低限の機能・動作で良い。 - 計測STEP
計測は予定と実績があって初めて意味を成す。一般企業での予定は管理会計に基づいて策定されるが、スタートアップではその不確実性故に管理会計に基づいて正確な予定を立てることは困難。そのため革新会計という手法(ていうか概念)に基づいて予定を立てる。
具体的には、事業仮説から事業計画を立て、その事業計画の成長の原動力となるKPIと理想値を定める(メーカーであれば顧客利益率、新規顧客獲得コスト、既存顧客リピート率といった具合)。
この”事業の成長の原動力となるKPI”の理想値を予定、MVPで得たデータを実績として計測していく。 - 学びのSTEP(ピボットか辛抱か)
計測から”事業の成長の原動力となるKPI”を改善するための学びを得る。そしてその学びから、KPIを改善するための次の仮説を立てる。
学びから立てた仮説の検証を繰り返しても一向に事業のKPIの改善が見られない(持続可能な事業としての成長が見られない)のであれば、そもそもの事業計画に誤りがある可能性が高いのでピボットする。
というサイクルを通して、事業の拡大/大小のピボットによる事業の転換を行うというものだ。
なお、事業拡大にとって重要な”顧客の拡大”と”マネタイズ”に関しては以下のように解釈できる。
- 顧客の拡大
アーリーアダプターからメインストリームの顧客に拡大する際に、忘れてはならないのはメインストリームの顧客はアーリーアダプターとは求めるものも、品質に対する要求も異なるという点だ。
製品に価値があることは証明されているが、それが当初想定したメインストリームの顧客規模にまで拡大できるかは未検証なので、ここについてもフィードバックループのサイクルを回し検証する必要がある。
当初想定した顧客規模までの拡大ができないという学びが得られた場合は、大なり小なりピボットする必要があるだろう。 - マネタイズ
リーンスタートアップにおいてマネタイズは、計測STEPにおいて定めた”事業の成長の原動力となるKPI”の改善と同じことだろう。つまり、マネタイズ成功=事業が成長する=成長の原動力となるKPIが理想値にちかづく、という理屈。
以降は各章個別の内容のピックアップなので第2部のまとめ的にはここまで。
構築・検証プロセスにおける特記 :本書 6章に対応
- MVPは完成を目指すためのものではない。事業仮説(価値仮説、成長仮説)が検証できればなんでもOK。逆に言えば、それが検証できるレベルのものができれば設計・開発途中だろうがMVPとしては完成と言える。
MVPは目的が学びのプロセスを始めることであってそれを終えることではない。プロトタイプやコンセプト検証と違い、MVPは製品デザインや技術的な問題を解決するためのものではない。基礎となる事業仮説を検証するためのものなのだ。
- MVPにおいて高品質は重要ではない。勘違いしてはいけないのは、品質が重要でないのではなく、高品質が重要でないということである。
品質の高低は、それを求める要件(顧客ニーズ)があって初めて議論できる。
MVPは要件(=事業仮説=顧客ニーズの有無)を検証するものであり、その時点では何が顧客ニーズか、はたまた誰が顧客となりうるかすら定まっていない(まだ●●が顧客で、顧客は●●というニーズをもっているはずだという仮説があるだけ)。
そのため、仮説のニーズを満たす品質は不要で、仮説を検証できる品質があれば良い。
MVPの品質のベースラインを認識することは、バッチサイズの縮小(後述)にも寄与する。品質に関する議論は、顧客が価値を認める製品の特質はわかっているとして行われる。しかしスタートアップの場合、これは思い込みにすぎず危険なことが多い。誰が顧客なのかさえよくわかっていない場合もあるのだ。
[···中略···]
誰が顧客なのかがわからなければ、何が品質なのかもわからない。 - 戒め。。。
作るのにどれだけの時間がかかったかなど、顧客は気にしない。
計測プロセスにおける特記 :本書 7章に対応
革新会計は何度読んでもよくわからない。。。
誰かもっとわかりやすく説明しているページなどあれば教えてほしいです。
- スタートアップは従来の管理会計で事業進捗を測ることはできない。スタートアップは不確実性が高すぎて精度の良い予測や目標が得られないから。(売上や利益が当初予想からずれることが当たり前だからということ??)
革新会計は、持続可能な事業にする方法を学んでいる(着実に”検証による学び”を得ている)と証明できる。 - 革新会計では価値仮説・成長仮説から事業計画を策定し、その事業において成長の原動力がなんなのかを明らかにする。
メーカーを例に取れば、販売利益をマーケティング・促販に再投資し新規顧客を獲得する。この場合の成長のエンジンは、- 顧客利益率
- 新規顧客獲得コスト
- 既存顧客リピート率
という感じ。
これは、リーンスタートアップが”検証による学び”を得るだけでなく、その学びが事業の成長に寄与するかどうかを測るためにも重要。リーンスタートアップは学び学びと言って、企業にとって最も重要なマネタイズに関する議論があまりなされていない印象があるが、おそらくこの成長の原動力を理解し、計測によりそのエンジンをチューニングしていくということが、結果マネタイズに繋がっていくということなのだろう(この点は10章の方が詳しく述べられている)。 - 革新会計の機能は3段階(学びの中間目標)。
- ベースラインの設定(=MVPから現状のデータを得る)
以下例。- 完全なプロトタイプとなるMVPを作成して検証=仮説をほぼすべて一度に検証可能
- スモークテスト=製品を使ってみたいと顧客が思っているか否かがわかる。(それ以外はわからない)
- 事業計画に置かれている様々な仮説から最もリスクの高い仮説を選び検証
- ベースラインから理想状態へのエンジンチューニング。(ベースラインで定めた)成長の原動力を強化する。
- ピボットするか辛抱するかの判断。ここは引用が最もわかりやすい。
「ビジネスモデルの原動力が改善されなければ前進ではない」という単純な事実をごまかせなくなる。そうなったらピボット以外に道はない。
- ベースラインの設定(=MVPから現状のデータを得る)
- その他ツール類。
- ファンネル
- コンバージョンタイミングごとのKPIをグラフ化したもの。キュベレイがサイコミュで操ってたやつの形を思い出そう。
例 家計簿アプリの利用実績)
DLした → 登録したがログインしなかった → ログイン → 口座を登録した → 有料会員になった - コホート分析
- あるタイミングごとの互いに独立した顧客グループの成績を個別に見る。基本だが、このグループのことを”コホート”と呼ぶことは知らなかった。
方向転換における特記 :本書 8章に対応
個人的にはこのピボットが一番重要で一番難しいと思う。
結局スタートアップは当初計画通りにうまくいくことなんてほとんどない。当初の目論見は泡のように崩れ、事業計画の数字は絵に書いた餅になる。
7章の計測ももちろん大切だが、計測で得られる結果というのは10/0で判断できるようなものではなく、一部はうまくいっているが一部はうまくいっていないというのがほとんど(あるいは人によってそのように解釈されてしまう)で、成長の原動力が正しく強化されているかを完全に定量的に把握することは難しい。
(一定定性的に)うまくいっている部分を信じて、うまくいっていない部分を改善する仮説を立てて次のループを回すがやはりうまくいかない。それを何回か繰り返すうちに、どうしても改善されないのでピボットが必要になる。しかし、そこまでいってしまった時のピボットの難しさは以下の文章に凝縮されている。
本書中では触れられていないが、この頃には資金面でも苦しくなってきているということも、より大胆なピボットを選択しづらい理由の一つだろう。
こうなる前にピボットの判断ができるかどうかはリーダーの手腕(要はセンスと運)にかかっており、この本に書かれている通りに実績してもピボットか辛抱かの判断を誤る(ピボットのタイミングを逸する)ケースは多々あると思う。
以下ピボットのテクニック(個人的には参考程度にしかならないと思っている)。
- ピボットの検討会議をあらかじめスケジュールに組み込む
- ピボットのタイプ
- ズームイン型ピボット
- 製品機能の一部に絞る
- ズームアウト型ピボット
- 製品全体だと思っていたものを製品の一機能として製品全体の構成を捉え直す
- 顧客セグメント型ピボット
- 製品に価値があることがわかったが、対象顧客がずれていた場合のピボット。アーリアダプターとメインストリームの顧客セグメントがずれている場合にもこの種のピボットが必要
- 顧客ニーズ型ピボット
- 顧客セグメントはずれてはいなかったが提供価値がずれている(解決すべき問題が別にある)場合のピボット。顧客の問題がそれまでに作った製品の位置付けを調整する程度で対応できる場合に効果大
- プラットフォーム型ピボット
- アプリケーションからプラットフォームへの方向展開など
- 事業構造型ピボット
- 高利益率・少量の複合システムモデル ⇄ 低利益率・大量の大量操業モデル
- 価値捕捉型型ピボット
- 事業にとっての価値の捉え方を変える。よくわからん。。。
- 成長エンジン型型ピボット
- 成長エンジン(10章参照)を切り替える
- チャネル型ピボット
- 販売チャネル、製品チャネルなどを切り替えるタイプのピボット
- 技術型ピボット
- 同じソリューションを異なる技術で実現する。新技術の採用により効率が劇的に上がるなども含まれる
第3部まとめにつづく。